はじめに
ロゴデザインやピクトグラムのデザインでは、グリッドと呼ばれる円や正方形などの幾何学模様を組み合わせた補助線がよく使われます。グリッドのルールを基準に設計することで、全体の統一感や、目指すべき印象に合わせていくことが可能です。
例えば、以前制作したフリーフォント”ROLAchan”では、グリッドによって重心となる横線の高さを低めに揃え、最小の円の大きさを固定し、明るく楽観的な書体になるように制作しています。今回はこのようなグリッドによる比率のルールと、印象変化についての実験となります。
和音グリッド
比率で有名な、黄金比(1:1.618)は、人間にとって最も安定し、美しい比率とされています。
この間隔による美しさは、音楽にも当てはまると考えます。
例えば、和音(コード)は、音と音の間隔によって印象を変えていきます。「メジャーコードは明るい」「マイナーコードは暗い」などそれぞれの持つ印象は音同士の間隔のルール、これはグラフィックへの応用が効くのではないでしょうか。
では、和音の音同士の間隔を元に制作されたグリッドを用いてタイポグラフィを作成した場合、文字の印象はコードの持つ印象を纏うのか。
鍵盤でコードの間隔を確認したところ、黄金比の位置に指を置いているコードが多いように見えます。美しい形と美しい音は関係性があるのでしょうか。
もしこの関係性が分かれば、「怪しい印象を演出する比率」「浮遊感を感じる比率」を元にデザイナーは迷いなくレイアウトの設計が行えますね。
比率をグリッド化し、タイポグラフィで試してみます。
majとmaj7
「陽気」「活発」な響きとされているmaj。
タイポグラフィでは、文字の間隔にさほど緩急がなく、のびのびとしています。
グリッドの間隔は「3:2:4」。
間隔の狭い重心が中心にあり、広がりは感じ取れます。音の感覚が個性だと考えると、それぞれがバランス良く活躍しています。
「おしゃれ」「都会的」「哀愁」な響きとされているmaj7。
タイポグラフィでは、majにプラスして隣同士に繋がる1音追加されています。造形的には、太い輪郭が走りメリハリのある形になっています。
グリッドの間隔は「3:2:3:0」。
等間隔の3を挟む安定したリズム、最大幅が同じため広がりを感じ取りづらい点が「哀愁」の印象につながるのかもしれません。
mとm7
「悲しい」「陰気」な響きとされているm。
タイポグラフィでは、小文字が小さくまとまっており、上部に広い余白が生まれています。
グリッドの間隔は、「2:3:4」。
陽気な印象のmajと割合は同じですが順番が異なります。映画のエンドロールの終わりのように、だんだんと間隔が広まっていくパターンが、悲しみや淋しさを印象付けるのでしょうか。
「おしゃれ」「寂しい」な響きとされているm7。
急に装飾的になり、遊び心のあるタイポグラフィになりました。変化があり、装飾しやすいグリッドです。
グリッドの間隔は、「2:3:2:1」。
maj7も「おしゃれ」とされていましたので、等幅を挟む形での安定感のある同間隔の規則+近接がおしゃれの決め手と言うことでしょうか。また、その等幅を反復する固定感が若干のマイナスイメージを持つ場合があると考えると、ビジュアルの制作的にも当てはまるように思います。
dimと7sus4
「怪しい」「何か起こる」な響きとされているdim。
タイポグラフィでは、規則的な下部と、コントロールの効かない上部の広い空間で分かれています。
グリッドの間隔は、「2:2:5」。
今回検証している中では最も広い間隔の「5」が出てきました。繰り返される細かいパターンと、広い余白にの組み合わせが嵐さを生むのでしょうか。
「浮遊感」「透き通った」な響きとされている7sus4。
タイポグラフィでは、m7と同じく装飾的ですが、m7との大きな違いはメリハリのある広い間隔。グリッドの造形的には下部が軽く、上部は重たく見えます。
グリッドの間隔は、「4:1:2:1」。
狭い1の間隔がリズムを生んでいるように思えます。
実験結果
- 同じ数値の広い間隔を2つ含むと、ネガティブな印象が付くが、狭い数値であれば軽さを感じる
- 重たい印象は最大幅が狭いと付く
- 音数/線数が多いほど、シンプルな感情を感じ取りにくくなる。
陽気な印象のmaj(3:2:4)の比率を見ると、バラバラの間隔に遊び心を感じます。カジュアルな配色に似たような印象も受けたので、次回は和音の間隔と配色をやってみたい。